世界メンタルヘルスデーに思うこと
クリニックに取り置きはじめた新聞
開院したばかりの頃、待合の時間を退屈せずに過ごしてもらうための案を色々と考えました。その一つとして、新聞ラックを用意して図書室のように数日分の新聞を取り置くことにしました。待合のスペースに限りがあるので、どの一紙にするか思いめぐらし、当院が九段下・神保町とオフィス街が近いので日本経済新聞を決めました。勤務医の頃は一般紙を読んでおりましたが、このときから医師も日経を読むようになりました。専門的な記事は難しいなと感ずる部分はありますが、企業や組織の中で何が起きているのかなどを知ることができるのはとても役に立っております。
大野裕先生の寄稿記事
先日、紙面に目を通しておりますと、精神科で認知行動療法の権威でもある医師の大野裕先生が寄稿していた記事に目がとまりました。10月10日の「世界メンタルヘルスデー」にあたって書かれたそれは、その日、東京タワーがシンボルカラーの銀色にライトアップされること、精神疾患がいまでも多くの偏見や誤解を持って受け止められている事実についてのものでした。大野先生は、かつてエイズという病気が世の中に知られたばかりのころ、空気感染しないことが未知であったことで、宇宙服のような感染防護服を着て対応していた事実にふれて、まだよく知られているとはいいがたい精神疾患について絡めておりました。
東京タワーのライトアップに照らされて
私も精神科医として日々仕事に向き合う中で、偏見や誤解というものについては深く感じるところがあります。今のような情報化社会ではあらゆることが検索できますし、精神疾患についてもかなりのことがネット検索が可能です。ただ、難しいのはこれらの情報のクオリティにはかなりバラつきがあり、ひどい内容に患者さんやご家族が惑わされることもあります。正しい情報を発信していくのもまた精神科医の務めなのかとは思いますが、医師は必ずしも発信することに長けているわけでもなく、下手に発信してしまうとさらに誤解を招くのではないかとも思い躊躇してしまうこともあります。ただ、世界メンタルヘルスデーのこの日、東京タワーの銀色ライトアップをみておりますと、今少しの勇気を出しなさいと、こころの中にほのかな光を灯されたような気持ちにもなりました。