「働くことのストレス」 【第2回】 これまでのメンタルクリニックの役割
増え続けてきたメンタルクリニック
前回、会社や組織がそこで働く人たちが抱えるストレスに無関心ではなく、対策を取り入れていることに触れました。そして、それが十分に機能していない部分があるとも書きました。会社や組織がストレスチェックを行い、コンサルタントなどの助言で施策を取り入れてきていても、こころの不調和を抱える人の数は増えてきているのが実態です。この20年でみて、メンタルクリニック(精神科、心療内科)の開業件数が、内科や外科などに比べてどれだけ多いか統計が示す事実はそのことを明らかにしています。もちろん、新たに設けられたメンタルクリニックのほとんどが、社会の要請に応えるべく診療を効果的かつ効率的に進めて、患者さんに早く回復して復帰をしてもらえるように努力をしてきたのは事実だと思います。
効果的・効率的を追求した結果
他方で、しっかりと考えなければならない論点もあります。メンタルクリニックが診療を効果的であり効率的であることの両方を同時追求していった結果として、薬物療法が大きく取り入れられるようになりました。症状に対して速やかな効果を期待できる一方で、患者さんによっては長期間にわたり薬物を使用し続ける場合もあり、これが時に終わりのない薬物療法として問題にもなってきました。誤解を招かないようにいえば、当院でも必要に応じて薬物療法を取り入れておりますし、症状によっては適切な薬物投与が最善の治療法であることも事実です。ただし、薬の量を徐々に減らしていくタイミングや、薬を必要としなくなる時期などについて、診察の度に慎重に見極めていくところが鍵となり、医師としての腕の見せどころでもあります。
保険診療の中で出来ること
もう一つの論点は、日本では保険診療の範疇で診察を行うことが普通となっています。詳細は省略しますが、クリニックは保険診療のルールに従い、その中で経営を成立させていく必要がある以上、初診は一定時間をかけて診察が出来ても、再診以降となるとどうしても診察時間を短めにして対応せざるを得ないといった構造があります。こうなると、よくハリウッド映画などで描かれるような、品のいい調度品やソファーがある落ち着いた雰囲気の部屋の中で、精神科医と患者さんが静かに向き合いながらじっくりと時間をかけて対話を重ねて、患者さんが精神分析とアドバイスを受けていくスタイルはほとんど成立しないことになります。ただ、こうした現状に悲観的になってばかりいても仕方なく、クリニック側でも可能な限り出来ることに取り組んでいくことが大切だと思っています。