「働くことのストレス」 【第1回】 会社や組織で働くストレス
変わり続ける会社と増えていくストレス
この20年くらいの間でみても、会社や組織のあり方は大きく変わってきたように思います。グローバリゼーションの潮流を受けて日本の産業構造は変わり、その影響を受けて会社や組織の中で働く環境や制度設計が随分と変革されてきました。終身雇用制度を前提とした人事制度はいつの間にか支流へと追いやられ、能力や業績をベースにした評価制度が主流になってきてもいます。さらに、最近では生産性・効率性をあげるためにリスキリングの導入がつよく推し進められています。これらのことは経済や経営の視点からみると大切なことかとは思いますが、組織の中で働く一人の人間の立場で考えると、間違いなくプレッシャーやストレスの増大に直面することになります。
ストレス自覚の難しさ
一般的にいえば、人は先行きが見えなくなることや、見通しが厳しいものになると不安やストレスを感じます。もちろん個性によってはそういう状況にチャンスを感じるという場合もありますが、やはり多くの人にとってはストレスの材料になります。能力を磨くこと、生産性をあげることが絶えず要求され続け、年功序列ではなく業績が給与や昇進に大きく響き、上司との面談も年間を通して何度もある。会社がビジネスの環境変化に追いつくために組織改編や部署異動も頻発して、それまでのビジネスのルールや手順が変わってゆく。働き手がこのようなことにさらされ続けていると、やはり心身へのプレッシャーやストレスは大きく圧し掛かってきます。ただ、こうした影響でどのような症状が出てくるかは人によって異なります。何かしらの自覚症状があればまだ良いですが、ときには自覚をしていないままにストレスがかかり続けており、次第に生産性や効率性が落ちてきても、それを自らの能力の問題や単なる疲労に置き換えてしまうような場合もあります。
会社や組織の取り組み
もちろん、会社や組織もそこで働く人たちのストレス問題に関心がないということではありません。産業医との連携や心理カウンセラーの設置、ストレスチェックを導入と対応への取り組み、働く人たちのこころの問題をきちんと掌握するべく努めているところもあると思います。ただ、結局のところこうした取り組みがストレスを減らす方向に紐づいてないこともよくあります。その理由の一つは、会社が用意してくれたストレスチェックやカウンセリング制度に対して、個人の秘密は守られるとはいわれても、そこで働く人たちがあまり本音を吐きたくないという気持ちが芽生えがちなことです。そして、自分はもっと頑張らなければといった衝動の手前、ついありのままの回答を行うことを控えてしまうことがよくあります。会社や組織は働く人たちの現実を反映したデータを収集できず、打ち出される対策もどこか中途半端なものになってしまいます。