AIの時代 と こころの調和 終章・苦手を消すのではなく、橋をかけるという発想

苦手分野は、なくならないかもしれません(そして、これはとても人間らしいことだと思います)。ただ、苦手のままでもある程度の「入口」は作れます。
入口ができれば、不安は薄れ、恐怖は消え、負荷が下がり、理解が少しずつ進み始めます。苦手を力ずくで克服するのではなく、得意や好きなものから橋をかけて、理解が入ってくるルートを整えるという発想です。
AIは、その入口づくりを一緒に模索できる時代の道具です。過度な期待や排除も必要はありません。大切なのは、人間のこころが主体となって、必要なときに静かに借りるという距離感です。AIは、考えを整理し、視点を変え、共通点を見つけるための補助線になり得ます。補助線が一本引けるだけで、これまで真っ暗に見えた分野に、入口の輪郭が浮かび上がることがあります。
そして、苦手が苦手のまま固まってしまう背景には、ときに感情の要素も混ざります。嫌悪感や不安、焦り——そうした感情は、悪者ではありません。ただ、強くなりすぎると理解の邪魔をしてしまうことがあります。だからこそ、無理に正面からぶつからず、周辺から迂回して、好きな分野の構造を改めて俯瞰してみる。そこで見つけた共通点を手がかりに、少しずつ浸透させていく。そうした穏やかな方法が、結果として心身の負荷を下げ、前に進みやすくすることがあります。
これまで述べてきたことには、大きな決意などは求められるわけではありません。「苦手分野の全体像を、やさしい言葉で説明してもらう」「自分の得意分野の考え方を、苦手分野に対応づけてもらう」「まず30分でできる入口だけを提案してもらう」。その程度の小さな一歩で十分です。大きく変わる必要はなく、ただ“入口をひとつ増やす”。それだけで、苦手の輪郭は少しずつ変わっていくと思います。
デジタルの時代は、速さと効率を私たちに求めます。けれど、人のこころは今も昔も少しずつ整っていくものです。焦らず、急がずに得意と苦手のあいだに一本の橋をかけていく——その作業が、学びや仕事の前進だけでなく、こころの調和にもつながっていくと考えています。
Photo:Amy Torbenson