2025.12.29
認知行動療法 と こころの調和

認知行動療法 と こころの調和―― 第一章 「未知」を少しずつ「既知」にしていく・2

・自分で能動的に線引きをしていく

漠然とした将来の不安や、災害への不安も同じ構造を持っています。
ニュースやネットの情報を追い続けるうちに、頭の中には「いつか大きな災害が来るかもしれない」「経済が壊れてしまうかもしれない」「戦争が起こるかもしれない」といった映像ばかりが増えていきます。そうした情報は、私たちのストレスシステムを常に刺激し続けますが、一方で「今、何をすればよいか」は教えてくれません。
このようなときには、まず「情報との距離」を見直してみることが必要です。
見続けると不安が膨らむだけの情報と、一度しっかり読めば安心につながる情報を分けていく。防災であればネット情報ばかりではなく、専門家の書いた本を一冊選んで読んでみる。家の耐震性や避難経路、防災グッズなどについて、一つひとつ確認していく。こうした作業は、未知だった領域に「既知の輪郭」を与えていく行為そのものです。「何もしていないから怖い」のではなく、「ここまでは備えているから、ここから先は考えすぎないでおこう」と、自分なりの線引きを作っていくことも、不安との距離を整える一つの方法だと思います。

・「未知」から「既知」への変化は、人間関係にも応用できる

人間関係の不安についても、「未知」を「既知」にする工夫は応用できます。
職場の同僚、学校の友人、地域やマンションの知人などの人間関係の中で、「何を考えているかわからない」「どんな反応をされるかわからない」と感じるとき、私たちのこころは過去の嫌な経験や、テレビやネットで見た極端な人間関係のイメージを総動員してしまうことがあります。
そうした場面では、相手の言動をすべて自分の問題として背負い込むのではなく、「あの人の背景には、こうした事情や性格の傾向があるのかもしれない」と、一歩引いた目線で“構造として理解する”ことが助けになる場合もあります。

・受け身の状態を能動的に変えてみる

大勢の前で話すときの緊張も同じです。会議やプレゼンの場で、「みんなが自分を厳しく評価している」と感じるときには、目の前の聴衆を一つの巨大な圧力として捉えてしまっていることが多いものです。そこで、「年齢が近そうな人」「表情が柔らかい人」「一番手ごわそうな人」といった具合に、あえていくつかの小さなグループに分けて眺めてみることを提案することがあります。
自分の目線で「この人には伝わってほしい」と感じる相手を一人だけ選び、その人に向けて話すつもりでプレゼンをしてみる。その反応を見ながらプレゼンの強弱などをつけていきながら、聴衆を“こちらから分析していく”という姿勢をとることで、「ただ見られているだけ」の受け身の状態から、少しずつ能動的な立場へと移行していくことができるでしょう。

こうした一つひとつの工夫は、どれも地味で、劇的な変化を約束するものではありません。
けれども、「何だかよくわからないから、とにかく怖い」と感じていた対象が、「自分なりに理解できる部分」と「まだ怖いけれど、少し付き合い方がわかってきた部分」に分かれていくだけで、不安の質は大きく変わっていきます。
認知行動療法が目指しているのは、不安を完全に消し去ることではなく、「未知を少しずつ既知にしながら、こころの負担を減らしていく」という穏やかな方向転換です。その小さな積み重ねが、次に「行動」を変えていく土台になっていきます。

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