認知行動療法 と こころの調和―― 第一章 「未知」を少しずつ「既知」にしていく・1

・未知に灯りをともしていく
「恐れ」「ストレス」「緊張」「不安」といった感情の多くは、突き詰めていくと「よくわからないもの」に向かって立ち上がります。
電車や飛行機、人が多く集まる場所、行政機関や公的な窓口、ニュースで繰り返し流れる災害や戦争、経済の話題…。頭では「大丈夫だろう」と思おうとしても、胸のあたりがざわついて落ち着かなくなる。その背景には、「この先どうなるのか」「自分はどう扱われるのか」が見えにくいことへの戸惑いが隠れていることが多いと感じます。
認知行動療法の視点では、この「よくわからないもの=未知」に、少しずつ灯りをともしていくことを大切にします。不安を一気になくそうとするのではなく、その輪郭をはっきりさせていくことで、「そこまで怖がらなくてもよい部分」と「慎重でいてよい部分」とを分けていく作業です。
・電車は自分の尊厳を運ぶ乗り物
電車に乗ると何故か動悸がして苦しくなり、「発作を起こして周りに迷惑をかけてしまうのではないか」「変な目で見られるのではないか」という不安が強くなっていく。こうしたことが起きる背景には、電車という空間を、不特定多数に囲まれる「社会」に見立て、同じような仕事着をまとう人たちを見ては、職場での経験を思い起こさせて、自分の評価や立ち位置を投影してしまうことがあります。
こういう場合は、電車を「社会全体の象徴」として抱え込んでしまっているこころのはたらきを、一緒に言葉にしながらほどいてみます。
「みんなの前で笑われるのではないか」というイメージがどこから来ているのか。組織に対する怒りや悔しさが、いま目の前の車両に重なっていないか。そうしたことを丁寧に振り返りながら、電車という存在の意味づけを少しずつ変えていきます。たとえば、目的地へと通うための手段として広く位置づけ直してみる。車内での時間を自分の学びや知的な時間へとつながる「通路」として捉え直す。それは、電車を「恐怖の箱」から「自分の尊厳を運ぶ乗り物」へと、静かに色を塗り替えていく作業でもあります。
・苦手を「個性」と捉えてみる
飛行機や乗り物全般が苦手な方には、その「苦手さ」を一度、もう少し日常的なレベルに置き換えてみることもあります。
高いところが苦手な人がいるように、海が怖い人、閉所が怖い人もいます。飛行機が怖いという感覚も、それと同じく一つの個性として捉え直してみる。さらに、飛行機事故と日常の交通事故では、その発生率に大きな差があることを具体的な数字を通じて確認していく。そうすることで、「何となくの恐怖」は少しずつ具体的な可能性などを踏まえた上での「自分なりの苦手と、現実的なリスクの調和」へと変わっていきます。