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2025.02.03
お知らせしたい本

『スマホ脳』 アンデシュ・ハンセン (新潮新書,2020年)

スマホ使用とこころの問題

スウェーデンの著名な精神科医であるアンデシュ・ハンセンが著した「スマホ脳」(新潮新書)。この本の内容はスマホを片手に生きることが常識となった現代に、ある厳しい現実を知らせてくれます。それを一言でいえば、スマホが持つあらゆる便利さを前に長時間の使用が当然となり、それが睡眠障害、抑うつ状態、集中力や記憶力の低下をもたらしては感情の諸々に影響を与えているというものです。著者は本書を通じて、人が本来の健全と健康を保つためにもスマホとの付き合い方の見直しを提起しています。

進化の過程の「ストレスシステム」とは

本書は全10章から構成されており、「スマホ脳」の本題に入る前に、人類がストレスと向き合うシステムをどのように脳内に構築してきたかの進化過程に言及しているのが特徴的です。簡単に要約しますと、人類は文字も持たない先史時代を含めると狩猟採集民として営みをしてきたのが大部分の歩みであり、人類が命を失うリスクとは飢餓、干ばつ、感染症、殺戮が主なものでした。この環境下を生き残るための決断を求められ続けたことで、脳内にはそれが司る感情とともに迅速かつ柔軟さを持って全力で動けるための「ストレスシステム」を形成してきています。

脅威のストレスと不安のストレス

これは人間が持つHPA系(視床下部・下垂体・副腎系)というシステムであり、たとえば猛獣と出くわしたときに「闘争か逃走か」を判断させ、その瞬時に大量にかかるストレスに耐えられるように設計されています。こうした局面では、脳は人間に睡眠欲、食欲、性欲などを後回しにさせて、「闘争か逃走」かに全力を注がせます。

更に、このシステムは猛獣に出くわすなどの瞬時の脅威からのストレスだけでなく、飢餓や感染症などの長期にわたる不安というストレスにおいても機能します。それは、脳が感情をネガティブなものへとさせて危険な環境に近づかせないようにするものであり、これが結果的に抑うつ状態や引きこもりの状態などにもつながります。このストレスシステムは、人間が危険な世界で身を守るために長い時間をかけて培ってきたもので、生き残りに大きく貢献してきました。ただ、このシステムは現代のようなデジタル機器に囲まれた社会に十分に適応できているわけではありません。

脳内のドーパミンとスマホの関係

人は新しい情報を欲する本能的なものを持ち、それに触れると脳内の伝達物質であるドーパミンが脳から放たれます。これは人を快活にさせるだけでなく、選択と集中に力を注がせる作用も持っています。スマホが生活の一部となり、新しい情報とドーパミンを生み出す貴重な代物となるほどに、たとえばその行方がわからなくなり接触が断たれてしまうと、人は強いストレスを感じることになります。これはいうなれば脅威のストレスとなり、脳はストレスシステムを「闘争か逃走か」のモードになって、スマホを求めて衝動的ともいえる行動をとることにもなります。

それでは片時も手元から離さずにおけばよいかといえばそうではなく、今度はスマホの使用が過度となり、ネットで情報検索やSNSなどに入れ込み過ぎると不安や嫉妬などから強いストレスが生じて、うつ症状、睡眠障害となることがわかってきています。これなどは不安のストレスであり、人間が培ってきたストレスシステムが引き起こす順当な反応ともいえます。

デジタル化時代の人間の自由

本書では、ライフスタイルがデジタル化してきていることを全面否定しているわけではありません。ただ、それがもたらすネガティブな側面に焦点をあて、SNSが脳内を「ハッキング」しているといった表現などを用いて、ストレスとその弊害について警鐘を鳴らしているものです。そして、本書の最後は「デジタル時代のアドバイス」として、「自分のスマホ利用時間を知ろう」「毎日1~2時間、スマホをオフに」「チャットやメールをチェックする時間を決めよう」など、いくつもの具体的な行動を提唱しており、その多くは人が自らの意志でデジタルライフとこころの調和を両立させていくための有益な助言を提言していると思います。

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