『メンタルタフネス 人生の危機管理』 ジム・レーヤー (TBSブリタニカ,1995年)
人が生きていく中で起きる様々な問題やトラブルに対して、タフになっておくことで巧く切り抜けていく。これを肯定して、タフになるためにどのようなトレーニングの仕方があるのかを真正面から取り組んだのが、ジム・レーヤーの『メンタルタフネス 人生の危機管理』という本です。著者は米国でテニスプレイヤーとして活躍し、後に心理学の研究に入って、主にスポーツ心理学の分野で著名となりました。
当初、スポーツや運動の競技者のために開発したメンタルタフネスのトレーニングシステムを、人が日々の生活に向き合っていくためのものとして応用することに成功して、他にも『ビジネスマンのためのメンタルタフネス』などの著作があります。
この本でのタフというのは、筋骨隆々やハードボイルドが醸し出すようなものではなく、幸福感を感じながら健康的な生活を過ごせるためのエッセンスとして捉えており、これを持つことで多くのストレスに対応していけるようになるのを目指す内容となります。この本はいかにも米国の実用書らしく、鍵となる理論やコンセプトを分かりやすく提示しながら、スポーツ、生活、ビジネス上のストレスや圧力を感じる実例を織り込んで構成されています。
著者はあらゆる分野において成功をなしとげた競技者には、共通する感情の種類があるとして、それをタフネス・レスポンスと呼んで4つに分けています。それは「柔軟性」「反応力」「強靭性」「弾力性」であり、ストレス下におけるタフネスの構成要素として、これを上手に高く保つことで理想的な心理状態に近づけるとしています。
この本で説くタフネス・トレーニングは、従来からあるストレス・マネジメント・モデルとは異なるといいます。後者がストレスからの防御に重きを置いて、気持ちの平静さを保ち、感情をフラットにすることを維持して健康へ結びつけるとすれば、前者は個人の感情を強くしていくことで、ストレスに巧く対応する能力を育てていくものだとします。このタフネス・トレーニングの基本原理は、健康のあり方をストレスと回復の間におけるダイナミックな相互作用として考え、そのバランスの取り方に核心があるとしています。
エネルギーの消費(ストレス)とエネルギーの回復(休息)のサイクルの中(日々の生活の中)で、オーバートレーニング(過剰)、アンダートレーニング(過少)でもなく、中庸(程よい)のトレーニングを自らに施す。このことでタフネスの振れ幅が強化されていくという理屈となり、その実践的な方法をいくつも説いています。
スポーツ選手出身で心理学の研究に入り、自らシステムをつくって実践してきた著者の見解は説得力に富んでいるといえるでしょう。ただ、タフになれということだけでは容易ではないですが、タフになるための方法論を着実に説いているところがこの本の魅力だと思います。