スマホ時代 と こころの調和 第四章 ・ デジタルネイティブの脳と、倍速で生きる時代

診察をしていると、若い世代ほど“倍速で生きている”ように見えることがあります。動画も授業も情報も、すべてを早送りで処理することに慣れてしまい、それが効率の象徴であり、うまく生きる方法だと感じているようです。もちろん、タイパ(タイムパフォーマンス)を意識した勉強法にも良い面があり、短時間で多くを吸収できるのは事実です。けれども、その分だけ脳が疲れやすくなり、集中力を保つのが難しくなる。倍速で学ぶ時間が長く続けば続くほど、心身のリラックスをどう取り戻すかという視点が欠かせなくなります。
現代では、思考そのものをネットに委ねてしまっている傾向も見られます。情報を検索すれば、答えはすぐに見つかる。しかし、スマホを閉じて自分の頭だけで考えるという時間が、どれほど少なくなっているでしょうか。デジタル機器を使う時は速くても構いません。けれど、考える時まで同じ速さで処理しては、脳は休む間を失い、精神の安定を崩していきます。
だからこそ、“切り替え”が大切です。デジタルの時間と、アナログの時間。たとえば、動画を見終えたあとにゆっくりとお茶を味わう。噛むように味を確かめ、思考のスピードを落とす。そうして自分の中に「早く処理していい時間」と「ゆっくり考える時間」のスイッチを意識して持つことが、こころの調和を取り戻す第一歩になります。このリズムが整いはじめると、ストレス耐性も自然と回復していくように見受けられます。
「何もない時間」を怖がらないこと
デジタルネイティブ世代の多くに共通しているのは、“何もしていない状態”を耐え難く感じてしまう傾向のようです。常に手元にスマホがあり、静かに座ることや、ただぼんやりすることができず、情報がない時間が不安で、無意識に画面を開いてしまうともいわれます。
けれど、何もしない時間の中にこそ、こころの回復が起こります。静かにお茶を飲む、食事を味わう、外の風を感じる。そんな些細な時間を嫌がらずに過ごしてみるだけで、脳はリセットの機会を得ます。もしそれすら落ち着かないときは、川のせせらぎや自然音など、静かな音を流しても構いません。大切なのは、「静けさを遠ざけない」ことです。