2025.10.14
日々のコラム

スマホ時代 と こころの調和 第二章 ・ 現場から見えた対処法

診察の中で感じるのは、多くの方が、まさか自分がスマホ脳になっているとは気づけていないということです。気づいたときにはすでに、睡眠や集中力の乱れ、気分の不安定さが日常に影響しています。当院では、それぞれの症状の背景に注目し、具体的な対処法を提案してきました。最初は半信半疑でも、「睡眠が変わり、生活が整ってきた」「苛立ちを感じにくくなった」と実感される方が増えています。

デジタルデトックスと再調整

デジタルデトックスという言葉はよく耳にしますが、実際に実践するとなると難しさを感じる方が多いようです。動画を見ない時間をどう過ごすか。ここが最初のハードルです。時間を持て余してしまうと、またスマホに手が伸びてしまう。そのような時には、手を動かすアナログな趣味を探してみるのも良いでしょう。編み物や料理、植物の手入れなど、静かに身体を動かすような行為が、脳に落ち着きを取り戻させてくれます。

もし過去に運動や武道などに触れた経験がある方であれば、デジタルに頼らない「フィジカルとメンタルだけの世界」にもう一度身を置いてみるのも有効です。武道のように身体とこころを同時に使う活動はデジタルから離れるための大きな助けになります。
何も考えずに汗を流す時間をつくることも大切です。人との比較を避けたいなら、一人で行えるトレーニングやウォーキングも良いでしょう。身体を動かすことでアドレナリンが適度に分泌され、気持ちがリセットされやすくなります。
こうしたオンとオフの切り替えが自然と身につくことで、結果的に仕事の集中力や日常の生産性が向上していくこともあります。運動を「義務」ではなく「報酬」としてとらえ、無心で身体を動かす時間を楽しむようにしてみてください。

一方、長時間スマホを見続けている場合は、もはや中毒的な状態になっているかもしれません。自分の意思で一定時間スマホを鍵付きボックスに入れるなど、少しずつ「切り離す習慣」をつくることが回復のきっかけになります。また、SNSや検索を控え、静かな時間を意識的に持つことも大切です。お茶をゆっくり飲む、香りを楽しむ、湯船に浸かるなど情報を遮断することで副交感神経が整います。脳は「刺激を求める」部分と「休みたい」部分を同時に持っており、この矛盾の中でバランスを崩していくのです。
ランニングや散歩の際に、あえて音楽をオフにしてみるのも良い方法です。自分の息づかいや街の音、風の音に意識を向けることで、脳は自然なリズムを取り戻します。また、動画をただ消費するだけでなく、見た内容の感想や気づきを紙に書き出したり、言葉にしてみたりすることもおすすめです。インプットとアウトプットを意識的に切り替えることで、自然とスマホから離れる時間が増えていきます。

デジタルから離れることで、肉体が変わり始めるとともに、こころの強さ―いわゆる「メンタルタフネス」も育まれます。人間は生身の身体を持って生きている以上、五感を使って世界を感じる時間を必要としています。デジタルの刺激と現実の体験、そのバランスを整えることが、こころの回復の第一歩となるのです。

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