2025.10.14
日々のコラム

スマホ時代 と こころの調和 序章 ・ 脳とスマホの不思議な相性

スマートフォンは、いまや私たちの日常にすっかり溶け込んでいます。通勤の途中や休憩の合間、眠る前のわずかな時間でも、気づけば手に取って画面を見ています。そこには便利さと安心感があり、世界とつながっている実感を与えてくれます。けれど、その裏側では、脳やこころのバランスが少しずつ崩れていくこともあるのです。

精神科医アンデシュ・ハンセン氏の『スマホ脳』では、人間の脳の進化が現代の環境に追いついていないことを指摘しています。人類は長い歴史の中で、飢餓や猛獣の襲来など、命に関わる危険に備えるために「ストレス反応」というシステムを発達させてきました。このシステムは、猛獣に出くわすような瞬間的な脅威だけでなく、飢餓や感染症といった長期的な不安にも働きます。脳が感情をネガティブな方向へと傾けることで、危険な環境に近づかないようにする。その結果、抑うつ状態や引きこもりといった形にもつながっていくのです。

ドーパミンと脳の矛盾する欲求

ところが、現代ではその仕組みが日常の中で過剰に作動しています。SNSの通知音や絶え間ない情報の流れが、まるで命の危機に直面したかのように脳を緊張させてしまうのです。さらに、新しい情報を求めるたびに分泌される「ドーパミン」は、脳に一瞬の快楽をもたらします。その心地よさを保とうとして、私たちは次から次へとスマホに手を伸ばします。しかし、それを続けるうちに脳は疲弊し、落ち着かなくなり、気分の不安定さを引き起こしていきます。
ドーパミンを出し続けたいという欲求と、脳が疲れてしまうという現実。この相反する状態の中で、私たちは無意識に「もっと見たい」「でも疲れる」という矛盾の中に立たされています。こうした状態は、まさにいわゆる“スマホ脳”と呼ばれる状態、あるいはネット中毒のひとつの形といえます。特に、短い動画を延々と見続けることは、脳への負荷が極めて大きい行動です。

当院でも、集中力の低下や睡眠障害、気分の落ち込み、苛立ちや人間関係の不調といった症状の背景に、スマホの使いすぎが関係しているケースを多く見ています。それでも、スマホを悪者とだけ決めつける必要はありません。大切なのは、どう付き合っていくかという“距離感”です。これからお話しするのは、当院での診療経験をもとに、実際の事例とともに見えてきた「スマホとの上手な付き合い方」です。

Page top